最終更新:2026年8月
「ウェブアクセシビリティが義務化された」——2024年の法改正以降、こうした見出しをよく見かけます。制作会社から対応を提案された企業も多いはずです。
ただ、この説明には正確でない部分があります。何が義務で、何が努力義務なのかを取り違えると、必要のない投資をしたり、逆に本当に必要な対応を見落としたりします。
この記事では、制度の正確な位置づけを整理したうえで、費用をかけずに今日からできる対応を中心に解説します。
この記事で分かること
- 何が義務で、何が努力義務なのか
- 費用をかけずにできる対応
- 優先度の高い項目と、後回しでよい項目
- 制作会社に依頼する場合の伝え方
※本記事は一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の判断は専門家にご相談ください。
義務なのは「合理的配慮の提供」
2024年4月施行の改正障害者差別解消法により、民間事業者にも「合理的配慮の提供」が義務づけられました。ここは事実です。
ただし、合理的配慮とは「障害のある方から、社会の中にあるバリアを取り除くために対応が必要だと伝えられたとき、過重な負担にならない範囲で対応すること」を指します。求めがあったときに、個別に対応する性質のものです。
| 合理的配慮の提供 | 環境の整備 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 義務 | 努力義務 |
| 性質 | 求めに応じた個別対応 | 事前の環境づくり |
| ウェブとの関係 | 問い合わせへの代替手段の用意など | ウェブアクセシビリティの確保はこちら |
つまり、ウェブアクセシビリティの確保そのものは「環境の整備」に位置づけられ、努力義務です。「JIS規格に準拠していないと直ちに法律違反になる」わけではありません。
この点を誇張して不安を煽り、高額な対応を提案する例があります。制度の位置づけを正しく理解したうえで、費用対効果を判断してください。
では、やらなくてよいのか
そうではありません。理由は3つあります。
- 環境が整っていれば、個別の合理的配慮の負担が減ります。最初から使いやすければ、個別対応を求められる場面自体が減ります
- 対象は障害のある方だけではありません。高齢者、一時的なけが、明るい屋外での閲覧、片手がふさがっている状況——誰にとっても使いやすくなります
- 多くの対応は、検索対策や使いやすさの改善と重なります。見出しの構造化、画像の代替テキスト、明確なリンク文言はいずれも共通です
特に3が実務的に重要です。アクセシビリティ対応の多くは、それ単体の投資ではなく、サイト品質の底上げです。
費用をかけずに今日からできること
優先度の高い順に並べます。いずれも既存サイトの運用の中で対応できます。
1|画像に代替テキストを入れる
画面を読み上げるソフトを使う方は、画像の内容を代替テキストで把握します。WordPressなら、画像挿入時の「代替テキスト」欄に入力するだけです。
| 良くない例 | 良い例 |
|---|---|
| (空欄) | 店舗外観。木製の看板と観葉植物が並ぶ入口 |
| image001.jpg | 施工事例:キッチンから食卓を見渡せる対面レイアウト |
| 写真 | 代表の◯◯。カウンターで来客対応をしている様子 |
装飾目的の画像は、代替テキストを空にするのが正解です。意味のない文字列が読み上げられると、かえって邪魔になります。
2|見出しを正しい順序で使う
H1→H2→H3の順に使い、飛ばさないこと。「文字を大きくしたいから」という理由で見出しタグを使うのは避けてください。読み上げソフトは見出しを目次のように使って移動するため、構造が崩れると内容がたどれなくなります。
これは検索エンジンの理解にも直結します。アクセシビリティと検索対策が完全に重なる典型例です。
3|リンクの文言を具体的にする
| 良くない例 | 良い例 |
|---|---|
| 詳しくはこちら | 詳しくは料金プランのご案内をご覧ください |
| こちらからお申し込み | 無料相談のお申し込みフォームへ |
読み上げソフトには「リンクだけを一覧表示する」機能があります。「こちら」が10個並んだ一覧は、何の役にも立ちません。
4|文字と背景のコントラストを確保する
薄いグレーの文字や、写真の上に置いた白文字は読みにくくなります。これは高齢者や、屋外でスマートフォンを見る人にも影響します。
無料のコントラストチェックツールで確認できます。デザインの好みで薄くしている箇所があれば、見直す価値があります。
5|文字を画像にしない
料金表、営業時間、キャンペーン情報を画像で作っていませんか。読み上げられず、拡大するとぼやけ、検索エンジンにも読まれません。
飲食店のメニュー、クリニックの診療時間表は特に該当しやすい箇所です。テキストと表で作り直すだけで、アクセシビリティ・検索・更新性のすべてが改善します。
6|キーボードだけで操作できるか確認する
マウスを使わず、Tabキーだけでサイトを操作してみてください。
- すべてのリンクとボタンに移動できるか
- 今どこにいるかが見た目で分かるか(枠線が表示されるか)
- フォームを最後まで入力・送信できるか
- メニューが開閉できるか
「デザイン上、枠線が邪魔だから消す」という指定は避けてください。キーボードで操作する人にとって、現在位置が分からなくなります。
7|自動再生・自動切り替えを止める
音声の自動再生、勝手に切り替わるスライダー、点滅する要素。読むのに時間がかかる人にとって、内容が切り替わるのは大きな障壁です。
スライダーを使う場合は、停止ボタンを付けるか、切り替え間隔を十分に長くしてください。
優先度の低い項目
費用対効果を考えると、中小企業のサイトで後回しにしてよい項目もあります。
| 項目 | 判断 |
|---|---|
| 動画への字幕・音声解説 | 動画が主要コンテンツでなければ後回しでよい |
| JIS規格への完全準拠と試験結果の公開 | 公的機関や大企業向け。中小企業には過剰なことが多い |
| アクセシビリティ支援ツールの設置 | 効果が限定的。本体の改善が先 |
| 専用の音声読み上げ機能の追加 | 利用者は既に自分の読み上げソフトを使っている |
3つ目に注意してください。画面の隅にボタンを設置して文字サイズや配色を変えられるようにするツールが販売されていますが、これを入れれば対応完了というものではありません。サイト本体の構造が整っていなければ、根本的な改善にはなりません。
制作会社への伝え方
新規制作やリニューアルの際は、要件として明示してください。
■ アクセシビリティに関する要件 ・画像には代替テキストを入力できる構成にしてください ・見出しは階層構造を守った実装としてください ・文字と背景のコントラストを確保してください ・料金表・営業時間などの情報は画像ではなくテキストで実装してください ・キーボード操作で全機能が使えるようにしてください ・フォーカス表示(現在位置の枠線)を消さないでください ・スライダーを使う場合は停止できるようにしてください ・上記に対応した更新マニュアルを提供してください
最後の1行が重要です。公開時に整っていても、その後の更新で崩れます。「代替テキストを必ず入力する」「文字を画像にしない」というルールを、更新マニュアルに明記してもらってください。
要件の伝え方全般はRFP(提案依頼書)の書き方を参考にしてください。
費用の目安
| 対応範囲 | 費用 |
|---|---|
| 既存サイトの簡易診断 | 5万〜15万円 |
| 代替テキスト・見出し・リンク文言の修正 | 10万〜30万円 |
| コントラスト・キーボード操作の改善 | 20万〜50万円 |
| 新規制作時に要件として織り込む | ほぼ追加費用なし |
| JIS規格準拠と試験結果の公開 | 50万円〜 |
注目すべきは4行目です。新規制作の段階で要件に入れておけば、追加費用はほとんどかかりません。後から直すほうが高くつきます。リニューアルを検討しているなら、その機会に織り込んでください。
よくある質問
Q. 対応しないと罰則がありますか?
ウェブアクセシビリティの確保自体は努力義務であり、規格を満たしていないことだけで直ちに違法となるわけではありません。ただし合理的配慮の提供は義務です。求めがあった際に何も対応しないという姿勢は問題になり得ます。
Q. 小規模な会社でも対応が必要ですか?
規模による例外はありません。ただし「過重な負担にならない範囲で」という前提があります。本記事で挙げた1〜7は費用がほとんどかからないため、まずそこから着手してください。
Q. 問い合わせ方法はフォームだけでよいですか?
複数の手段を用意することを推奨します。電話、メール、フォーム。これは合理的配慮の観点だけでなく、単純に問い合わせの機会損失を防ぐ意味でも有効です。
Q. どこから手をつければよいですか?
「文字を画像にしている箇所」を探して、テキストに直すことから始めてください。料金表、営業時間、メニュー。ここが最も影響が大きく、検索対策と更新性の面でも同時に改善します。
まとめ
- 義務は合理的配慮の提供。ウェブアクセシビリティの確保は努力義務
- 規格を満たしていないだけで直ちに違法になるわけではない
- ただし対応の多くは検索対策・使いやすさと重なる。やる価値は十分にある
- 優先は代替テキスト・見出し構造・リンク文言・コントラスト・脱画像文字
- 支援ツールの設置だけでは根本的な改善にならない
- 新規制作時に要件へ入れれば追加費用はほぼゼロ
不安を煽られて過剰な投資をする必要はありません。制度を正しく理解したうえで、費用のかからない対応から着実に進めてください。

