「うちは既存取引先との商売が中心だから、ホームページは名刺代わりでいい」
製造業でよく聞く考え方です。しかし現在、BtoBの発注担当者も、まず検索して候補を集めます。展示会や紹介で名前を知った後も、必ず社名で検索し、サイトを見て判断します。
問題は、その時点で候補から外れているケースが多いことです。技術力があっても、それがサイト上で判断できなければ、比較の土俵に乗りません。
この記事で分かること
- BtoBサイトを見ているのは誰で、何を確認しているのか
- 加工事例と技術情報の書き方
- 資料ダウンロードでリードを獲得する仕組み
- 多言語対応をどこまでやるべきか
商談が始まる前に、選別は終わっている
BtoBの発注プロセスは、おおむねこう進みます。
- 社内で必要な仕様・条件が固まる
- 検索して候補を集める(材質、加工方法、寸法、業界名などで検索)
- 各社サイトで対応可否を判断し、3〜5社に絞る
- 問い合わせ・見積依頼
- 商談・試作・発注
2〜3の段階で落ちている企業が非常に多いのが実情です。営業担当は「引き合いが減った」と感じますが、実際には検討のテーブルに乗る前に外されています。
ここで落ちない条件は明快です。「うちの案件に対応できるか」がサイトを見て判断できること。それだけです。
誰が見ているのか
| 閲覧者 | 確認していること | 用意するもの |
|---|---|---|
| 技術者・設計者 | 対応可能な材質・寸法・公差・数量 | 技術情報ページ、加工事例、設備一覧 |
| 購買・調達 | 取引実績、品質体制、納期、供給の安定性 | 取引先業界、認証(ISO等)、生産体制 |
| 経営層 | 会社の安定性、事業継続性 | 会社概要、沿革、財務規模、従業員数 |
| 求職者 | 働く環境 | 採用情報(BtoB企業では重要な流入源) |
技術者と購買では、見るページがまったく違います。両方の導線をトップページから用意してください。
技術情報ページが最重要
製造業サイトで最も効果が大きく、最も作られていないページです。
「精密板金加工を行っています」だけでは、技術者は判断できません。必要なのは対応範囲の数値です。
| 書くべき項目 | 記載例 |
|---|---|
| 対応材質 | SUS304/SUS316/SPCC/アルミA5052/銅 ほか |
| 対応寸法 | 最大◯◯mm × ◯◯mm、板厚0.5〜6.0mm |
| 対応公差 | ±0.05mm(条件により) |
| 対応数量 | 試作1個から量産1万個まで |
| 保有設備 | 機種名・台数・加工能力 |
| 表面処理 | アルマイト/メッキ/塗装(自社/協力工場) |
| 納期の目安 | 試作◯日、量産◯週間 |
| 認証 | ISO 9001、ISO 14001 など |
これらの数値は、そのまま検索されるキーワードでもあります。「SUS304 板金 小ロット」「アルミ 切削 試作 ◯◯県」といった検索で見つかるのは、具体的な数値を書いているサイトです。
「対応できないこと」も書いてください。「板厚6mm超は協力工場にて対応」「量産10万個以上は要相談」と明記すれば、見込みのない問い合わせが減り、営業の工数が下がります。
加工事例の書き方
製品写真を並べるだけでは足りません。技術者が知りたいのは「どんな難しさを、どう解決したか」です。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 用途・業界 | 半導体製造装置向け、医療機器向け など |
| 材質・寸法・数量 | 具体的な数値 |
| 課題 | 「薄板で反りが出やすい」「深絞りで割れが生じる」など |
| 対応内容 | 治具の工夫、工程の見直し、材料の提案 |
| 結果 | 不良率の改善、コスト削減率、納期短縮 |
| 写真 | 完成品と、可能なら加工中の様子 |
守秘義務がある場合は、顧客名を伏せ、業界名と技術的な内容だけを書けば問題ありません。「大手半導体製造装置メーカー様向け」で十分に伝わります。
写真が出せない案件は、図やイラストに置き換える方法もあります。掲載できない理由で事例をゼロにするのが、最ももったいない選択です。
資料ダウンロードでリードを取る
BtoBサイト特有の、有効な仕組みです。
技術者は、検討段階では問い合わせをしません。しかし資料のダウンロードなら、比較的抵抗なく行います。ここで社名と連絡先を得られれば、営業のアプローチ先になります。
| 用意する資料 | 内容 |
|---|---|
| 会社案内・技術紹介 | 設備一覧、対応範囲、実績 |
| 加工事例集 | 事例をまとめたPDF |
| 技術資料 | 材質選定のガイド、公差の考え方、コスト削減のポイント |
| 製品カタログ | 自社製品がある場合 |
フォームの入力項目は会社名・氏名・メールアドレスの3つに絞ってください。電話番号を必須にすると、ダウンロード数は明確に落ちます。
特に効果が高いのは「技術資料」です。自社の宣伝ではなく、発注側が判断に使える知識をまとめた資料は、専門性の証明にもなります。既存の社内資料を整理するだけで作れることも多くあります。
必要なページ構成
| ページ | 内容 | 優先度 |
|---|---|---|
| トップ | 対応領域の要約、技術情報・事例への導線 | 必須 |
| 技術情報・対応範囲 | 材質、寸法、公差、数量、設備、認証 | 必須・最重要 |
| 加工事例・製品事例 | 課題と解決を含む事例 | 必須 |
| 設備一覧 | 機種名、台数、加工能力 | 必須 |
| 品質・生産体制 | 検査体制、認証、生産管理の方法 | 高 |
| 会社概要 | 沿革、資本金、従業員数、取引先業界 | 必須 |
| 資料ダウンロード | 会社案内、技術資料、事例集 | 高 |
| お問い合わせ・見積依頼 | 図面添付ができるフォーム | 必須 |
| 採用情報 | BtoB企業では主要な流入源になる | 高 |
問い合わせフォームの設計
BtoB特有の注意点があります。
- 図面ファイルを添付できるようにする:DXF、PDF、STEPなど。これがないと見積依頼が電話に戻ります
- アップロード容量の上限を明示する:「20MBまで」など。上限を超えると無言で失敗することがあります
- 秘密保持について一文入れる:図面は機密情報です。取り扱い方針を書いておく
- 回答の目安を書く:「2営業日以内に担当者よりご連絡します」
- 問い合わせ種別を分ける:見積依頼/技術相談/資料請求/採用
図面添付ができないだけで、機会損失は相当な規模になります。制作会社に「図面ファイルを添付できるフォームが必要」と明確に伝えてください。
多言語対応はどこまでやるか
海外展開を視野に入れる場合の判断です。
| 段階 | 内容 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 英語の会社概要1ページのみ | 5万〜15万円 |
| 第2段階 | 会社概要+技術情報+問い合わせの3〜5ページ | 20万〜40万円 |
| 第3段階 | サイト全体の英語版 | 20万〜60万円(1言語) |
いきなり全ページを翻訳する必要はありません。まず第2段階までを作り、実際に海外からの問い合わせがあるかを見てから広げるのが現実的です。
注意点として、機械翻訳をそのまま載せるのは避けてください。技術用語の誤訳は、技術力そのものへの疑念につながります。技術情報ページだけは、専門知識のある翻訳者に依頼する価値があります。
WordPressでの多言語化の実務はWordPressの翻訳・ローカライズのTIPSもご覧ください。
費用と進め方
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 制作費用 | 100万〜300万円 |
| 制作期間 | 3〜5か月 |
| 上振れ要因 | 製品データベース、検索・絞り込み機能、多言語対応、図面添付フォーム |
製造業サイトで時間がかかるのは、技術情報の整理です。対応可能な材質や公差の一覧は、社内の複数部門にまたがる情報で、まとめるのに想像以上の時間を要します。
制作会社を決める前から、この整理を始めておいてください。ここが遅れると、全体のスケジュールが後ろ倒しになります。準備の進め方は原稿・写真素材の準備を参考にしてください。
製造業の実績がある制作会社は製造業・BtoB企業のサイト制作に強いWeb制作会社から探せます。
よくある失敗
1|「高品質・高精度」としか書いていない
すべての製造業が同じ言葉を使っています。技術者はこの表現を読み飛ばします。±0.05mm、板厚0.5〜6.0mm、工程能力指数——数値だけが判断材料になります。
2|設備一覧に機種名がない
「マシニングセンタ 5台」ではなく、メーカー名と機種名、加工範囲まで書いてください。技術者は機種名を見れば、何がどこまでできるかを判断できます。ここは検索でも拾われる情報です。
3|問い合わせが電話番号だけ
技術者は、まず図面を送って可否を確認したいと考えます。電話しか手段がないサイトは、その時点で候補から外れます。図面添付に対応したフォームは必須です。
4|社長の挨拶がトップページの主役になっている
会社概要ページに置くべき内容です。トップページで最初に見せるべきは「何がどこまでできるか」。技術者は数十秒で対応可否を判断し、次のサイトへ移ります。
5|採用情報を後回しにする
BtoB企業のサイトでは、アクセスの相当な割合を求職者が占めます。人材確保が経営課題になっている企業ほど、採用ページへの投資は事業への直接的な貢献になります。構成は採用サイトに必要なコンテンツと構成を参考にしてください。
BtoB企業の実例を見たい場合は、制作者が分かっているものだけを集めた製造業・メーカーのウェブサイトデザインをご覧ください。
制作会社とスタッフの名前まで載せています。
よくある質問
Q. 技術情報を公開すると、競合に真似されませんか?
対応範囲の数値を公開しても、設備と技能がなければ同じことはできません。むしろ公開しないことによる機会損失のほうがはるかに大きいのが実情です。ノウハウの核心部分を書く必要はなく、「何ができるか」を示せば十分です。
Q. 既存取引先が9割です。サイトに投資する意味はありますか?
2つの意味があります。1つは取引先の担当者交代時のリスク回避です。新任担当者は必ず検索します。もう1つは採用です。BtoB企業では、求職者がサイトを見て応募を判断します。新規開拓以外の効果も小さくありません。
Q. 製品数が多く、すべて掲載するのが大変です
すべてを載せる必要はありません。代表的な製品カテゴリと、対応範囲の数値があれば判断できます。個別の型番はPDFカタログのダウンロードで対応するのが現実的です。数千点規模なら、製品データベース化を検討してください。
Q. 価格は載せるべきですか?
受注生産では困難ですが、「試作1個から対応」「最小ロット◯個」といった条件は書いてください。金額そのものより、取引条件が分かることが重要です。標準品がある場合は価格帯を示すと問い合わせにつながります。
まとめ
- BtoBでは商談前に選別が終わっている。サイトで対応可否が判断できることが条件
- 最重要は技術情報ページ。材質・寸法・公差・数量を数値で書く
- 対応できないことも書く。見込みのない問い合わせが減る
- 加工事例は課題と解決を書く。顧客名は伏せてよい
- 資料ダウンロードで検討段階のリードを取る。入力は3項目まで
- 問い合わせフォームは図面添付に対応させる
技術情報の整理は手間がかかりますが、一度作れば長く効きます。営業資料の作り直しと同じ作業と捉えて、社内の協力を得ながら進めてください。

