サーバー移転で本当に怖いのは、サイトが表示されないことではありません。メールが止まることです。
サイトが数時間見えなくても、多くの場合、事業への影響は限定的です。しかしメールは違います。受信できないだけでなく、送信元にエラーも返らず、静かに消えることがあります。取引先からの発注メールが届かなかったと後で分かる——これが最悪のシナリオです。
この記事では、メールを止めないことを最優先に、サーバー移転の実務手順を解説します。
この記事で分かること
- 移転前に必ず記録しておくべき情報
- 移転の8ステップと、それぞれの所要時間
- メールを止めないためのDNS切り替えの段取り
- 切り替え後に確認すべきこと
なぜメールが止まるのか
ドメイン(example.co.jp)は、DNSという仕組みで「Webはこのサーバー、メールはこのサーバー」と行き先を指定しています。
| レコード | 役割 |
|---|---|
| Aレコード | Webサイトの置き場所(IPアドレス) |
| MXレコード | メールの配送先 |
| TXTレコード(SPF等) | 送信元の正当性を示す設定 |
| CNAMEレコード | 別名の指定(wwwなど) |
多くのレンタルサーバーは、WebとメールをセットにしたDNS設定を自動で書き込みます。サーバーを移すとき、新サーバー側の初期設定でMXレコードも上書きされる——これが事故の典型です。
WebサイトはA社サーバー、メールはGoogle Workspaceという構成だった場合、Web移転に伴ってMXが新サーバーに向いてしまえば、その瞬間からメールが届かなくなります。
移転前に必ず記録すること
作業を始める前に、現状をすべて記録してください。これを飛ばした移転は、必ずどこかで詰まります。
| 項目 | 確認方法 |
|---|---|
| 現在のDNSレコード一式 | DNS管理画面のスクリーンショット。A・MX・TXT・CNAMEをすべて |
| ドメインの登録事業者と有効期限 | Whois検索 |
| DNSの管理場所 | nslookup -type=NS ドメイン |
| 現在のMXレコード | nslookup -type=MX ドメイン |
| メールアカウントの一覧 | サーバー管理画面。転送設定・自動応答も忘れずに |
| PHPバージョン | サーバー管理画面 |
| データベースの情報 | DB名、ユーザー名、接続先ホスト |
| SSL証明書の種類 | 無料SSLか有料か。有料なら再発行の要否 |
| cronの設定 | 定期実行しているスクリプトがないか |
| サイトの全ページ一覧 | 移転後の表示確認に使う |
管理情報が分からない場合は、まずそこから調べる必要があります。手順はドメイン・サーバーの管理情報が分からないときの調査手順にまとめています。
移転の8ステップ
| STEP | 作業 | 所要 |
|---|---|---|
| 1 | 現状の記録(前章) | 1〜2時間 |
| 2 | 新サーバーの契約と初期設定 | 1時間 |
| 3 | DNSのTTLを短くする | 作業5分+反映待ち1日 |
| 4 | サイトのデータとデータベースを新サーバーへ移す | 2〜4時間 |
| 5 | 新サーバーで表示確認(hostsファイル等で先行確認) | 1〜2時間 |
| 6 | メールアカウントを新サーバーに作成(移す場合) | 1〜2時間 |
| 7 | DNS切り替え | 作業10分+反映1〜24時間 |
| 8 | 切り替え後の確認、旧サーバー解約 | 1週間以上あけて |
全体で1〜2週間を見てください。作業自体は1日で終わりますが、TTLの反映待ちと、切り替え後の様子見の期間が必要です。
STEP3|TTLを短くしておく
見落とされやすい、しかし重要な工程です。
TTL(Time To Live)は、DNS情報がキャッシュされる時間です。通常は3600秒(1時間)や86400秒(24時間)に設定されています。これを切り替えの前日までに300秒(5分)に下げておくと、切り替え時の反映が速くなり、問題が起きたときの切り戻しも短時間で済みます。
注意点として、TTLの変更自体が、元のTTLの時間だけかかって浸透します。元が24時間なら、TTLを下げる作業は切り替えの2日前には済ませてください。
切り替えが無事に終わったら、TTLは元の値に戻しておきます。
STEP5|切り替え前に新サーバーで表示確認する
DNSを切り替えてから「表示がおかしい」と気づくのでは遅すぎます。切り替え前に、新サーバー上のサイトを確認する方法があります。
- hostsファイルを書き換える:自分のPCだけ、新サーバーを見に行くようにする
- サーバー会社が提供する確認用URLを使う
- 一時的なサブドメインを切って確認する
この段階で、全ページの表示、フォームの送信、ログイン、画像の表示を確認しておきます。WordPressの場合、PHPバージョンの違いでプラグインが動かなくなることがあるため、特に入念に確認してください。
メールを止めない段取り
ここが本題です。パターン別に整理します。
パターンA|メールは移さない(Webだけ移転)
メールがGoogle WorkspaceやMicrosoft 365、あるいは別サーバーにある場合です。最も安全なパターンですが、油断は禁物です。
やることは1つ。DNS切り替え時に、Aレコードだけを変更し、MXレコードとSPFレコードは現状のまま維持する。
新サーバーの「ドメイン追加」機能を使うと、MXレコードが自動で書き換わることがあります。設定後に必ず nslookup -type=MX で確認してください。
パターンB|メールも一緒に移す
難易度が上がります。手順は次のとおりです。
- 新サーバーに、同じメールアドレスをすべて作成する(DNS切り替え前に)
- 転送設定・自動応答・迷惑メール設定も再現する
- DNSを切り替える
- 切り替え後しばらくは、新旧両方のサーバーでメールを受信し続ける
- 過去メールを新サーバーへ移行する(必要なら)
- 1週間以上経過し、旧サーバーへの着信が止まったことを確認してから解約
4が重要です。DNSの反映には時間差があるため、切り替え直後は、送信者によって新旧どちらかのサーバーに届きます。旧サーバーを即座に解約すると、その間のメールが失われます。
実務では、各PC・スマートフォンのメールソフトに、新旧両方のアカウントを一時的に設定しておくのが確実です。
過去メールの移行
POP方式で各PCにダウンロード済みなら、サーバー上のメールを移す必要はありません。IMAP方式の場合は、サーバー上にメールが保管されているため移行が必要です。
移行にはメールソフトの機能や専用ツールを使いますが、件数が多いと数時間〜数日かかります。どちらの方式で運用しているかを、移転計画の段階で確認してください。
切り替え後に確認すること
- MXレコードが意図どおりか(
nslookup -type=MX ドメイン) - 外部アドレスから自社宛にメールを送り、届くか
- 自社から外部へ送り、迷惑メールに入らないか(SPFの設定漏れで起きます)
- 全ページの表示(特に画像とCSS)
- お問い合わせフォームからの送信と受信
- SSLが有効か(鍵マークが出るか)
- httpからhttpsへのリダイレクト
- wwwあり/なしの両方でアクセスできるか
- WordPressの管理画面にログインできるか
- cronで動かしていた処理が継続しているか
3番目のSPF設定漏れは、非常によくある見落としです。メールは届くのに、自社からの送信が相手の迷惑メールフォルダに入る——これは数週間気づかないことがあります。
よくある失敗
- MXレコードを記録せずに作業した:元に戻せなくなります。最初に必ず控える
- 旧サーバーをすぐ解約した:切り戻しができず、移行期間中のメールも失います
- TTLを下げずに切り替えた:問題が起きても、反映に24時間かかります
- 金曜の夕方に作業した:問題発覚が週明けになります。火曜〜木曜の午前中が定石
- PHPバージョンの違いを確認していない:プラグインやテーマが動かなくなります
- メールの転送設定を再現し忘れた:info宛を個人アドレスへ転送していた、など
費用と依頼先
| 作業範囲 | 費用の目安 |
|---|---|
| Webのみ移転(小規模サイト) | 3万〜10万円 |
| Web+メール移転 | 10万〜30万円 |
| WordPress+PHPバージョンアップ対応込み | 15万〜40万円 |
| 大規模サイト・システム連携あり | 要見積もり |
依頼する際は、「メールも移すのか」「移転後の不具合対応はどこまで含まれるか」を必ず確認してください。ここが範囲外になっている見積もりが少なくありません。
あわせて、この機会にサーバー・ドメインの契約名義を自社に整えることをおすすめします。理由はサーバー・ドメインをお客様名義で契約すべき理由をご覧ください。
よくある質問
Q. 移転中、サイトは何時間止まりますか?
正しく手順を踏めば、ダウンタイムはほぼゼロにできます。新サーバーにデータを置いてからDNSを切り替えるため、切り替え前後どちらのサーバーを見ても同じサイトが表示される状態を作れるからです。
Q. 移転で検索順位は下がりますか?
URLが変わらなければ、原則として影響はありません。ただし表示速度が大きく落ちたり、一時的にエラーが出続けたりすると影響が出ます。切り替え後1週間はSearch Consoleでエラーを監視してください。
Q. ドメインも一緒に移管すべきですか?
同時にやらないでください。サーバー移転とドメイン移管を同時に行うと、問題が起きたときに原因の切り分けができません。まずサーバー移転を完了させ、安定を確認してから、必要ならドメイン移管を行ってください。
Q. 自分でもできますか?
Webのみの移転で、静的サイトなら可能です。ただしメールが絡む場合は、経験のある技術者に依頼することを強くおすすめします。失敗したときの損失が、依頼費用をはるかに上回ります。
まとめ
- 怖いのはサイトではなくメール。MXレコードを最優先で守る
- 作業前にDNSレコード一式を記録する
- 切り替えの2日前にTTLを300秒に下げる
- 切り替え前にhostsファイルで新サーバーの表示確認をする
- 旧サーバーは1週間以上あけてから解約する
- 作業は火曜〜木曜の午前中。金曜夕方は避ける
移転は、段取りさえ守れば怖い作業ではありません。記録と確認を省かないことが、すべてです。

